会社法206条の2(公開会社における募集株式の割当て等の特則)を解説します。




会社法206条の2は公開会社における募集株式の割当て等の特則について規定している条文です。





1.会社法206条の2の条文

第206条の2(公開会社における募集株式の割当て等の特則)
公開会社は、募集株式の引受人について、第一号に掲げる数の第二号に掲げる数に対する割合が二分の一を超える場合には、第百九十九条第一項第四号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の二週間前までに、株主に対し、当該引受人(以下この項及び第四項において「特定引受人」という。)の氏名又は名称及び住所、当該特定引受人についての第一号に掲げる数その他の法務省令で定める事項を通知しなければならない。ただし、当該特定引受人が当該公開会社の親会社等である場合又は第二百二条の規定により株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合は、この限りでない。
当該引受人(その子会社等を含む。)がその引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数
当該募集株式の引受人の全員がその引き受けた募集株式の株主となった場合における総株主の議決権の数
前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
第一項の規定にかかわらず、株式会社が同項の事項について同項に規定する期日の二週間前までに金融商品取引法第四条第一項から第三項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、第一項の規定による通知は、することを要しない。
総株主(この項の株主総会において議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主が第一項の規定による通知又は第二項の公告の日(前項の場合にあっては、法務省令で定める日)から二週間以内に特定引受人(その子会社等を含む。以下この項において同じ。)による募集株式の引受けに反対する旨を公開会社に対し通知したときは、当該公開会社は、第一項に規定する期日の前日までに、株主総会の決議によって、当該特定引受人に対する募集株式の割当て又は当該特定引受人との間の第二百五条第一項の契約の承認を受けなければならない。ただし、当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の事業の継続のため緊急の必要があるときは、この限りでない。
第三百九条第一項の規定にかかわらず、前項の株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。

2.会社法206条の2の1項


まずは第1項を確認します。


▼会社法206条の2の1項

公開会社は、募集株式の引受人について、第一号に掲げる数の第二号に掲げる数に対する割合が二分の一を超える場合には、第百九十九条第一項第四号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の二週間前までに、株主に対し、当該引受人(以下この項及び第四項において「特定引受人」という。)の氏名又は名称及び住所、当該特定引受人についての第一号に掲げる数その他の法務省令で定める事項を通知しなければならない。ただし、当該特定引受人が当該公開会社の親会社等である場合又は第二百二条の規定により株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合は、この限りでない。
当該引受人(その子会社等を含む。)がその引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数
当該募集株式の引受人の全員がその引き受けた募集株式の株主となった場合における総株主の議決権の数

上場企業で時々見られますが、要するに発行予定の株式が目茶苦茶多い場合に発動する条文になります。

以下の会社を例にします。


株式会社X(上場企業)
・普通株式 1,000株

上場企業にしては、発行済み株式総数が少ないですが、そこはご了承ください。

X社は資金調達が必要になったため、新たに株式を発行することにしたとします。

仮に1,001株を新たに発行した場合はどうなるでしょうか。


株式会社X(上場企業)
・普通株式 2,001株(+1,001株)

既存株主と新規に入ってくる株主の割合を比べると、


既存株主:49.975%(1,000株)  新規株主:50.024%(1,001株)

議決権の過半数を新規株主に奪われてしまいました。

議決権の過半数を奪われるということは、新規株主のみで普通決議を承認可決することが出来ますし、逆に普通決議を否決することが出来ます。

これってとても影響力のあることです。

このような場合は、199条1項4号の期日(払込期間なら初日)の2週間前までに、既存株主に通知を出さなければなりません。

通知事項は氏名又は名称及び住所の他に会社法施行規則42条の2に規定されている事項です。

1項ただし書きですが、X社の親会社等が新規株主になる場合や株主割当て方式(202条)の場合は、上記通知は不要です。



3.会社法206条の2の2項


続いて第2項を確認します。


▼会社法206条の2の2項

前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

1項の通知は株主多数の場合などは、公告方法に従って公告すれば、個別的な通知はする必要がありません。



4.会社法206条の2の3項


続いて第3項を確認します。


▼会社法206条の2の3項

第一項の規定にかかわらず、株式会社が同項の事項について同項に規定する期日の二週間前までに金融商品取引法第四条第一項から第三項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、第一項の規定による通知は、することを要しない。

1項に該当する場合であって、金融商品取引法上の届け出をしている会社は通知(もちろん公告も)する必要はありません。

法務省令は会社法施行規則42条の3の事なので、余裕があれば確認してみてください。




5.会社法206条の2の4項


続いて第4項を確認します。


▼会社法206条の2の4項

総株主(この項の株主総会において議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主が第一項の規定による通知又は第二項の公告の日(前項の場合にあっては、法務省令で定める日)から二週間以内に特定引受人(その子会社等を含む。以下この項において同じ。)による募集株式の引受けに反対する旨を公開会社に対し通知したときは、当該公開会社は、第一項に規定する期日の前日までに、株主総会の決議によって、当該特定引受人に対する募集株式の割当て又は当該特定引受人との間の第二百五条第一項の契約の承認を受けなければならない。ただし、当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の事業の継続のため緊急の必要があるときは、この限りでない。

1項で、議決権の過半数を奪われる事になる場合、既存株主への通知が必要であることを確認しましたが、その通知に対してレスポンスがあった場合の規定になります。

以下の会社を例にします。


株式会社X(上場企業)
・普通株式 1,000株


新たに1,001株を発行するにあたり、既存株主が反対の通知を会社にしてきましたが、その反対株主の持ち株数の合計100株以上に達したときは、株主総会での決議が必要になります。

こちらの決議は309条2項に列挙されていないので、普通決議で足りると思いきや、5項に別途規定があるので確認してみてください。。

公開会社は取締役会設置会社であるところ、通常、募集株式の発行は取締役会で決議できる(201条)ことと比較してみてください。

4項にはただし書きがあり、会社の財務状況が著しく悪化している場合で事業継続がピンチの場合は、取締役会の決議のみで募集株式の発行をすることが出来ます。

要は、資金ショート目前で、あの投資家からお金を貰わないと、会社が倒産するなどの場合です。

会社が倒産したら、その会社の株の価値は無くなります。機動的に募集株式の発行をしなければならない場面もあるわけなので、そのような場合は、取締役会のみで募集株式の発行を決めることが出来ます。



6.会社法206条の2の5項


続いて第5項を確認します。


▼会社法206条の2の5項

第三百九条第一項の規定にかかわらず、前項の株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。

4項の株主総会決議は特別な普通決議で決議します。通常の普通決議は、出席要件と決議要件の両方を排除できますが、206条の2の5項は、定款で別段の定めをした場合であっても、出席要件は1/3まで、決議要件は加重のみ可となっています。

こちらは309条1項に普通決議の決議要件を記載しているので、比較してみてください。




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