まずは第1項を確認します。
▼会社法207条1項
199条1項3号とは、募集株式の発行を金銭以外でする場合の事です。
現物出資といいます。
現物出資での募集株式の発行は、原則裁判所に申し立てをし、検査役を選任する必要があります。
検査役の選任は時間、金銭的なコストがかかるため、通常は回避する方法で募集株式の発行をしますが、その説明は後に続きます。
現物出資の際に、なぜ検査役が必要か。
募集株式の発行をする際に、金銭であればその価値は一目瞭然ですが、現物出資の場合は違います。
具体例として1株1,000円の価値で、10万株を発行している会社を例にします(時価総額は1億円)。
不動産価額600万円の土地を給付し、現物出資での募集株式の発行をした場合はどうでしょうか。
新たに発行する株式数は、不動産価額600万円を1株1,000円で割った、6,000株です。
募集株式の発行の手続きが完了した時点では、発行済み株式総数10万6,000株で時価総額は1億600万円になります。
不動産価額が適正であれば、問題になりませんが、この不動産の実質的な価値は、実は600万円もなく6万円だった場合はどうなるでしょうか。
現物出資をした投資家にとっては、600万円分の価値がある株式を6万円で手にしたことになりますがその分、株の価値が薄まるので既存株主がワリを食うことになります。
これって不公平ですよね。
このような事にならないように、現物出資での募集株式の発行の際には、検査役にまともな価格を出してもらう事を制度としています。
続いて第2項を確認します。
▼会社法207条2項
そのままの意味です。
続いて第3項を確認します。
▼会社法207条3項
会社法コンメンタール5によれば、検査役の資格については特に法定されていませんが、実際は弁護士が選任されているようです。
弁護士が現物出資財産が適当か色々と調査するわけですから、当然、費用がかかってきます。
こういったコストがかかるため、現物出資でも検査役の選任をしなくてもよい方法を取りますが、後の説明に続きます。
続いて第4項を確認します。
▼会社法207条4項
現物出資財産について調査をしたら、検査役は裁判所にその旨を報告する義務を負います。
続いて第5項を確認します。
▼会社法207条5項
裁判所は検査役の報告が足りない判断した場合は、補足の報告を求めることが出来ます。
私見になりますが、検査役の報告がいまいちでも、再調査の指示までは出来ないかと思います。
条文上も、「報告を求めることができる」となっていますし。
続いて第6項を確認します。
▼会社法207条6項
現物出資による募集株式の発行を行う会社に対しても、裁判所にした報告と同じ内容の報告をしなければなりません。
お金を払っているのは会社なので、報告義務があるのは当然といえば当然です。
続いて第7項を確認します。
▼会社法207条7項
ここからは、具体例を挙げて説明します。以下の会社を例にします。
投資家Aから、不動産の給付を受け、代わりに株式を500株発行することを決めたとします。
仮に不動産の価値が5,000万円だったとした場合、1株あたり10万円での発行になります。
検査役の選任を裁判所に頼み、調査してもらった結果、この不動産の価値は5,000万円もなく、1,000万円と裁判所が評価した場合どうなるでしょうか。
この場合は、さすがに本項の不当と認めたときに当たるはずですので、裁判所が現物出資財産の価額を1,000万円に変更する決定を下します。
続いて第8項を確認します。
▼会社法207条8項
現物出資財産を給付する者は、7項の裁判所が下した判断に納得がいかなければ、募集株式の引受けをキャンセルすることが出来ます。
5,000万円の不動産だと思っていたのに、その1/5しかないと判断されれば、じゃあ株いらない、となるでしょう。
続いて第9項を確認します。
▼会社法207条9項
207条の検査役の選任・検査が省略できる規定がこの9項です。実務では、現物出資であっても、この9項に当たるようにします。
ちなみに、1~5号の全てに当たる必要はなく、いずれか一つに当たれば、検査役の選任・検査は省略可能です。
またまた、以下の会社を例にします。
投資家Aから、不動産の給付を受け、代わりに株式を100株発行する場合、発行済み株式数の1/10を超えない場合に該当するので、検査役の選任は不要です。
では、100株でなく101株を発行する場合はどうでしょうか。
この場合は、発行済み株式数の1/10を超えるので、検査役の検査が必要になりますが、2号に該当すれば回避することが出来ます。
1号の流れに続きまして、101株の発行の場合であっても、現物出資財産が500万円以下であれば、検査役の検査を回避することが出来ます。
では、不動産の価額が501万円の場合はどうなるでしょうか。
この場合は、検査役の検査が必要になりますが、4号の制度を利用することで検査役の選任を回避することが出来ます。
説明の都合上、3号と4号の位置を入れ替えています。
2号の流れに続きまして、不動産価格が501万で合った場合は、原則、検査役の検査が必要になりますが、現物出資財産につき、その価額が相当であると弁護士等の証明を受けた場合は、検査役の検査を回避することが出来ます。
ただし、不動産を現物出資する場合は、弁護士等の他に必ず不動産鑑定士の鑑定評価もプラスで必要になります。
上場会社等の株式を現物出資する場合は、その株式の価値は一目瞭然なので、検査役の検査をする必要がありません。
3号の法務省令とは、会社法施行規則43条なので、余裕がある方は見てみてください。
よくあるパターンが、代表取締役が会社に対して債権を持っているパターンです。
役員報酬債権であったり、個人的なお金を運転資金として会社に貸し付けていた場合などです。
弁済期到来済みで、当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合であれば、検査役の選任を回避することが出来ます。
続いて第10項を確認します。
▼会社法207条10項
現物出資財産の鑑定は、利害がある人(手心を加えてしまう恐れがある)や業務停止中の者等は、証明者にはなれません。