1項と2項は同時にみたほうが分かりやすいです。
107条は単一発行会社の株式について規定している条文でしたが、108条は種類株式を発行している会社の株式について規定している条文です。
会社が種類株式として発行できる株式の種類は一~九号までの9種類あります。単一発行会社は3種類だけでしたが、種類株式になるとその種類は拡大します。
ここでは、例として普通株式とA種優先株式の2種類を発行している会社をあげていきます。
一号の剰余金の配当は、ある種類の株式を優先して配当金を分配する際などに利用されます。
上場企業でも、剰余金の配当について普通株式より優先されるA種優先株式が発行されることがあります。事例としては、業績悪化で急遽現金を調達しないと会社のキャッシュが無くなってしまう場合などに剰余金の配当が付された種類株式が発行されることが多いように見受けられます。
続いて、二号の残余財産の分配です。
一言で表すと、M&Aなどで会社を清算する際に、普通株式よりもA種優先株式を優先的に残余財産を分配するというものです。ベンチャーファイナンスで種類株式を発行する際には必ず入っている条項です。
この条項があるからこそ、投資家も投資しやすくなるのでベンチャーファイナンスには必須であると思います。
続いて、三号の株主総会において議決権を行使することができる事項は、議決権制限株式と呼ばれるものです。剰余金の配当と残余財産の分配との組み合わせで設計することが多いのですが、剰余金・残余財産を優先する代わりに、株主総会では何の議決権も有しない、とすることが多いです。
ちなみに、「A種優先株式を有する株主は、株主総会において決議すべきすべての議案について議決権を有しないものとする。」と定めている上場企業もありますが、会社法は、単に「株主総会」とした場合は「種類株主総会」は含めない取り扱いです。
種類株主総会での議決権も与えたくない場合は、別途、その旨を定める必要があります。
続いて、四号「譲渡制限株式」、五号「取得請求権付株式」、六号「取得条項付株式」ですが、107条のページで解説している内容と同一なので、省略します。
続いて、七号の当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得することですが、全部取得条項付種類株式と呼ばれています。この定めがある種類株式は、株主総会の特別決議によって、その種類の株式の全部を会社に回収されるよう設計することができます。
キャッシュアウトの手段として、上場企業でも利用されることがあります。
続いて、八号の株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第478条第6項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするものとは、別名、拒否権付種類株式や黄金株と呼ばれています。
通常の株主総会だけでなく、拒否権付種類株主による種類株主総会でも承認されないと有効な決議にならない、というものです。
ベンチャーファイナンスでも、比較的よくみる条項です。株式を追加で発行する際には、ある種類の株式の種類株主総会も必要となるといった定めを設けることがあります。
また、東証一部上場企業である国際石油開発帝石(1605)には、甲種類株式として拒否権付種類株式が発行されています。拒否権付種類株式の内容の一部を紹介すると、事業目的の変更や合併をする際には、甲種類株式の種類株主総会の決議が必要、といった内容が定められています。
石油に関する事業を国策として進めている背景があり、外部資本によって、コントロールされにくいように拒否権付種類株式を発行している模様です。
ちなみに、2019年3月時点において国際石油開発帝石は約14億6000万株の株を発行していますが、そのうちの1株のみが甲種類株式であり、甲種類株式の株主は経済産業大臣です。
最後は九号当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任することです。
これもベンチャーファイナンスでみる条項です。種類株主総会で取締役1名を選任する、など定めている会社もあります。
一つ注意が必要なのは、A種類株主による種類株主総会で取締役1名を選任する、と定めた場合、残りの取締役については通常の株主総会でも選任することは出来なくなります。こちらの根拠は森・濱田松本法律事務所の「株式・種類株式」に書いてあります。
取締役について選任権付種類株式を発行する場合、当該定めを設けた会社の取締役の全員が種類株主総会により選任されることになる(法347条により読み替えて適用する法329条1項)
(弁護士 戸嶋浩二 森・濱田松本法律事務所(2015)『株式・種類株式(第2版)』 p341,中央経済社.)
選任権付種類株式を設けた瞬間に、通常の株主総会では取締役の選任をすることが出来なくなり、その他の取締役をすべての種類の株主が共同して開催する種類株主総会にて選任する、とわざわざ設けなくてはならないので、ご注意ください。監査役についても同様です。
1項の冒頭にありますが、委員会設置会社及び公開会社については、選任権付種類株式を設けることは出来ません。ベンチャーファイナンスの領域では、IPO直前期の際に、指名委員会等設置会社に移行する会社もありますが、移行の際に、当該種類株式の内容も整理しておく必要があります。
続いて3項です。
▼会社法108条3項
3項は、実際にその種類の株式を発行していないなら、要綱だけを定めておけばよい、という規定です。
議決権制限株式を例にすると、A種類株主は株主総会において議決権を行使することができない、と定めるのが通常です。
これが要綱のみを定めると、株主総会の決議によって定める事項についてのみ議決権を行使することができる、という具合になります。
議決権制限株式であることは定めるが、具体的にどんな内容になるかは初めて発行する際に決める、というのが108条3項の要綱の趣旨です。
要綱だけを定める場合でも、あらかじめ定めておかなければならない事項があり、会社法施行規則第20条1項(種類株式の内容)にその規定があります。
取得請求権付株式も例にしますと、
・取得することを請求できる旨(規則20条1項五号イ)
・取得と引き換えに交付される財産(規則20条1項五号ロ)
取得請求権付株式には、取得請求の発動条件や交付財産の具体的な金額を定めることがありますが、これについては、初めて発行する時までに先延ばしできます。
平成20年30問目(会社法)
肢 | 問い | 正誤 |
ウ | 会社が異なる2以上の種類の株式を発行する場合において,1の種類の株式の種類株主について剰余金の配当を受ける権利を与えない旨の定款の定めを設けることはできない。 |
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エ | 会社法上の公開会社は,ある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役を選任することを内容とする種類株式を発行することができない。 |
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平成24年28問目(会社法)
取締役会設置会社である甲株式会社(以下「甲社」という。)は,ある種類の株式(その発行時においては,剰余金の配当についてのみ他の種類の株式と内容が異なっているものとする。以下「A種類株式」という。)の発行後に定款を変更し,A種類株式の内容として,甲社が別に定める日(以下「取得日」という。)が到来することをもって甲社がA種類株式の一部を取得することができる旨の定款の定めを設けようとしている。この場合における次のアからオまでの記述のうち,正しいものはどれか。なお,問題を解くにあたっては,各肢に明記されている場合を除き,定款に法令の規定と異なる別段の定めがないものとして,解答すること。
肢 | 問い | 正誤 |
ア | 甲社は、当該定款の変更に係る甲社の株主総会の決議に加え,A種類株式を有する株主全員の同意を得なければならない。 |
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イ | 甲社は,当該定款の変更が効力を生ずる日の20日前までに,A種類株式の株主に対し,当該定款の変更をする旨を通知し,又は公告しなければならない。 |
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ウ | 甲社が会社法上の公開会社である場合において,A種類株式の数が発行済株式の総数の2分の1を超えているときは,甲社は,A種類株式の数を発行済株式の総数の2分の1以下にするための必要な措置を執らなければならない。 |
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エ | 甲社は、当該定款の定めを設けた場合において,取得日を定めるには,取締役会の決議によらなければならない。 |
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オ | 甲社は,当該定款の定めを設けた場合において,A種類株式の一部を取得しようとするときは,その取得する株式を決定し,A種類株式を有する全ての株主及びその登録株式質権者に対し、当該決定の日から2週間以内に,取得の対象となるA種類株式を特定する事項を通知し,又は公告しなければならない。 |
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