上場審査が止まりかねない、種類株主総会の注意点

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上場審査が止まりかねない、種類株主総会の注意点
執筆者:司法書士 坪井 宏太
更新日時:2018.06.13
   
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数度のエクイティ・ファインナンスを行い、いよいよ上場準備(IPO)に入ったときに、やっておかなければならなかった種類株主総会をやっていない、ということで上場審査が止まってしまう・・・

あるいは、M&Aの際に、デューデリジェンスで、指摘されエグジットが頓挫してしまう・・・

このような事態に陥らないよう、種類株主総会について理解し、適切に運営する必要があります。この記事では種類株式を発行する際にスタートアップベンチャーが気を付けるべき点について解説します。

なお、スタートアップベンチャーを対象としているので、すべての株に譲渡制限が付いている非公開会社かつ取締役会を設置していない会社を前提に進めていきます。


 目次

1.種類株主総会とは

まずは、言葉の定義からです。

種類株主総会とは、ある種類の株式の種類株主を構成員とする会議体である。~略~

会社法は、議決権を有するすべての株主を構成員とする株主総会と、ある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会とを区別しており、特に断りがない限り(たとえば、116条2項1号)、前者が包含することはない。

(伊藤、2015、Legal Quest、会社法、p87)

定時株主総会・臨時株主総会は全ての種類の株主を一同に集める会議体ですが、種類株主総会は上記にあるように、ある種類の株主だけを構成員とする会議体です。

普通株式A種類株式など複数の種類の株を発行している会社の場合、ある決議をとる時に、普通株主による株主総会とA種類株主による株主総会も開催する必要があります(後述します)。

ちなみに、2種類以上の株式を発行しているなら、普通株式も種類株式になりますのでご注意ください。名前が普通株式というだけで種類株式に変わりありません。また、株式の種類が1種類しかない会社は、種類株式は存在しないので種類株主総会はそもそもありません。

2.初めて種類株式を発行する場合

ここでは、初めて種類株式を発行する場合に、どういった手続きが会社法上求められているのか解説します。

現在、1種類の株式しか発行していない会社が新たな種類の株式を発行するときには、

 1)定款を変更し、種類株式を新設する(会社法108条2項)
 2)募集株式の発行を行う(会社法199条~)

という手続きが必要になります。この時、種類株はまだ存在していないため、種類株主総会を開催し決議を取ることはありませんので、定時(臨時)株主総会を開催し決議をとります。

◆初めて種類株式を発行する場合のフロー

取締役が株主総会の議案を決定する
株主総会招集通知を出す(中7日設ける)
株主総会開催(定款変更、株式発行決議)
払込期日までに払い込み

この段階(シリーズA)では種類株主総会を開催することはありません。気を付けなければならないのは、シリーズBに突入し、株の種類が3種類になる場合です。

3.B種類株式を発行する場合


この時、必要な株主総会は(定時 or 臨時)株主総会、普通株主による種類株主総会、A種類株主による種類株主総会の3つになります。


◆B種類株式を発行する場合のフロー

取締役が株主総会の議案を決定する
普通、A種のそれぞれに株主総会招集通知を出す
(中7日設ける)
株主総会を開催(定款変更、株式発行決議)
普通株主による株主総会を開催(定款変更)
A種類株主による株主総会を開催(定款変更)
払込期日までに払い込み

B種類株式を新設=定款の変更になるので、定款を変更するための(定時 or 臨時)株主総会を開催し、決議をとる必要があります。(会社法108条2項)

続いて、普通株主による種類株主総会で決議を取り、A種類株主による種類株主総会でも決議を取る必要があります。

普通株主、A種類株主の種類株主総会でも決議を取らなければならない根拠は会社法322条1項1号イです。

第322条(ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会)
1. 種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
 次に掲げる事項についての定款の変更(第111条第一項又は第二項に規定するものを除く。)
 イ 株式の種類の追加
 ロ 株式の内容の変更
 ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加
 株式の併合又は株式の分割
 第185条に規定する株式無償割当て
 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第202条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第241条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
 第277条に規定する新株予約権無償割当て
 合併
 吸収分割
 吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継
 新設分割
十一 株式交換
十二 株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得
十三 株式移転
2. 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。
3. 第1項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第1項第一号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。
4. ある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式について第2項の規定による定款の定めを設けようとするときは、当該種類の種類株主全員の同意を得なければならない。

新たにB種類株式を発行するので、「株式の種類の追加」にあたります。会社法322条は「損害を及ぼすおそれがある場合」に決議がいる、と定義されていますが、新たな株式の種類の追加が損害を及ぼすおそれはない、と判断するのは難しいので、実務上は種類株主総会の決議は取っておきます。

「ウチは会社法322条2項の規定を定款で定めているので普通株主による種類株主とA種類株主による株主総会はやっていません。」と言われる方もいらっしゃいますが、それは間違いです。

会社法322条2項は会社法322条3項とセットとみてください。会社法322条3項のただし書きに「ただし、第1項第一号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。」と規定されていますので、仮に定款に322条2項の規定を定めていたとしても

 イ)株式の種類の追加
 ロ)株式の内容の変更
 ハ)発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加

は例外扱いになっています。つまり、新たにB種類株式を新設するならば、普通株主による株主総会およびA種類株主による株主総会の決議を取らないといけません。

種類株式の決議を取り忘れていた場合、「その効力を生じない。」と記載されているので、B種類株式を発行していたとしてもそれは無効になってしまいます。

この問題が明らかになるのは、B種類株式を発行し数年経ったIPO準備段階やM&Aでのデューデリジェンスなので、仮にIPOを目指している会社なら上場審査が止まってしまいます。

会社法は複雑で(まさにパズルの様に)、法定の要件を満たすよう株主総会を運営・決議をしていくのはなかなか難しいものがあると思います。

確実な株主総会の運営を行いたい場合や種類株式の発行を計画している場合、または既に種類株式を発行しているが有効な決議になっているか確認したいという場合はご相談ください。

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